
久保田奈穂
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ニューヨークを拠点に活動する写真家・久保田奈穂は、2006年から、特に2019年から2024年にかけて、ニューヨーク市全域に点在するイエローキャブの修理工場を記録してきました。あの黄色い車体は、傷を直すたびに専用の塗装ブースで再び黄色く塗り直されます。街の象徴をまっとうな黄色に保ち続けるための、地味な反復作業です。けれども長い年月のあいだに、噴霧された塗料はブースの壁や床に少しずつ積もっていき、誰も意図しないまま、層をなした幻想的な空間がそこに立ち上がっていきます。
近年は、UberやLyftといったライドシェアの台頭によってイエローキャブの数は減り続け、それを支えてきた修理工場もまた、ひとつ、またひとつと姿を消しつつあります。本書はその失われていく場所のアーカイブでもあります。写っているもののほとんどは、写っているそのときにすでに、半分は消えかけているものたちです。そこにはもう存在しないものが、それでもなお気配として現場に残り続ける。ジャック・デリダが hauntology(憑在論)と呼んだ、あの薄い時間の手ざわりが、これらの写真には静かに漂っています。
写真の多くは閉店後に撮られていて、人の姿はありません。建築写真を本業とする久保田の眼は、空間を全景として捉えると同時に、車の部品が偶然つくり出す配置や、塗装ブースの一部分へと、思いがけずクローズアップしていきます。一枚のなかに、建築家の俯瞰と、細部に取り憑かれた者の接写とが、ふしぎに同居しています。久保田が強く惹かれてきた塗装ブースは、空間の類型として見れば、アーティスト・スタジオの極端なかたちのひとつとも言えるかもしれません。建築はほとんど消え去るかのように後景へ退き、黄色を塗り続けるという反復そのものに、すべての主役性が委ねられているからです。
人の気配を排しつつ、整然と並ぶ車の部品や塗装ブースといった「舞台装置」にそっと光を当てることで、久保田の写真は、そこで営まれてきた労働の記憶や、幾層にも重なる時間の痕跡を、静かに映し出しています。
978-4-9913241-1-6
久保田奈穂
ヘスス・バサロ
アレックス・クイーン
ダニエレ・カーター
アトラス・スタジオ, チューリッヒ
マルイエタ・モリンツ
ググラー・メルク, オーストリア
H303mm x W303mm x D10mm, 740g / 31ページ
